LOGIN謁見が終わって、王宮を出たのは昼過ぎだった。
アルバ殿下が廊下で待っていた。 「よくやりました、エリナ殿」 「ありがとうございます。殿下の準備がなければ、今日はなかった」 「王都のデータは、効きましたね」殿下が少し笑った。
「右側の列が、ざわついた」
「見えていました」 「父上は、満足そうでした。あの顔は、久しぶりに見た。一年前に、『わくわくしている』と言いましたが、今日はそれ以上でしたよ」 エリナは少しだけ、その言葉を受け取った。 「殿下、商会の代表についてお願いがあります」 「ゴードンさんから聞きました。昨夜、連絡をいただいた」 「はい。正式にエリナ・アッシュフォードの名で商会を持てるよう、陛下にご確認いただけますか?」 「すでに父上に話しました。年齢の問題は、特例として認めていただける方向です。正式な書類は、来週中に届きます」 「ありがとうございます」 「アッシュフォード商会の代表が、アッシュフォードの名前になる。当然のことですから」王宮の外で、師匠とレインが待っていた。
師匠がエリナに言った。 「一つだけ言っておく」 「はい」 「今日の発言で、一番良かった部分を教えてもいいか?」 「ぜひ」 「クロヴェルへの返答だ」師匠が静かに言った。
「感情で返さなかった。でも、感情がないふりもしなかった」
エリナはフィオナが昨日言っていた言葉を思い出した。 「感情がないふりもしなくていい、という言葉を、昨日フィオナからもらいました」 「賢い子だ、フィオナ殿は。あの返答には、あなたがいた。数字だけではなかった」 「届きましたか?」 「届いた。俺には届いた。他の人間にも届いたと思う」 師匠が一歩退いた。 「俺はこれで失礼する。よくやった」 「先生、ありがとうございました。一年間、本当に」 「礼はいらない。あれだけの数字を積み上げてくれれば、こちらも動きやすかった。お互い様だ」 師匠が、ゴードンの方に少し立ち止まって、何かを言った。ゴードンが深く頭を下げた。 それから師匠は歩いていった。四人になった。
エリナ、ゴードン、フィオナ、レイン。 フィオナが言った。 「今夜、四人で食事しましょう。私が店を選ぶ」 「いい店ですか?」 「いい店よ。今日のために、前から考えていた」フィオナが選んだ店は、王都の中心から少し外れた、小さな食堂だった。
石造りの建物の中に、木のテーブルが四つ。壁に羊のタペストリーが掛かっていた。 「庶民的だな」レインが言った。
「豪勢すぎると、落ち着かないでしょう。今日くらいは、落ち着いて食べたい」 「同意する」 四人でテーブルに着いた。 暖炉が燃えていた。外の冬の冷たさが、嘘のように思えた。 料理が来た。豆のスープ、焼いたパン、ラム肉の煮込み。 エリナは豆のスープを一口飲んだ。 ルシェムで作ったものとは、少し違う。でも、温かかった。 「乾杯をしましょう。何に乾杯する?」 「一年間に」ゴードンが静かに言った。
「届いたことに」エリナが言った。
「父上に」レインが言った。
エリナは少しだけ止まった。 レインが「父上に」と言った。 エリナの父ではない。でも、レインはそう言った。 「父に」エリナが繰り返した。 四人が、湯呑みを合わせた。食事をしながら、話した。
フィオナが今日の謁見の中で一番印象に残った場面を話した。 「師匠が冒頭に同じ話から始めた時、謁見の間の空気が変わった。あれは計算外だった」 「計算していました」 「え?」 「師匠からの手紙で、同じ話を使うと聞いていた。でも、実際に始まった時の空気は、計算以上でした」 「なぜ計算以上になったと思う?」 「師匠の声が、違った。師匠は感情を込めない人だと思っていた。でも、あの話をする時だけ、少し違った。本当に届けたいと思って話していた」 「俺も感じた。師匠が、ああいう話し方をするのを、初めて見た」 「師匠を変えたのは、エリナが書いたおばあさんの話だと思う」フィオナが言った。
「数字の奥に人がいることを、師匠が受け取った」
「レインが教えてくれた言葉が、師匠に届いて、師匠の発言になって、謁見の間に届いた」エリナが静かに言った。
「一本の線が、繋がった気がする」
レインが少しだけ目を細めた。 「俺が言った言葉が、そこまで繋がったのか」 「繋がりました」ゴードンが途中で席を外した。
「少し、外の空気を吸ってきます」 それがゴードンなりの気遣いだと、エリナは思った。 フィオナも立ち上がった。 「私も」 「フィオナも行くんですか?」 「暖炉が少し暑い。少しだけ」 二人が店を出た。 テーブルに、エリナとレインが残った。静かだった。
暖炉が燃えている音がした。 外から、かすかに王都の街の音が聞こえた。 エリナは湯呑みを持ったまま、少しだけレインを見た。 「一年後の約束が、今夜です」 「そうだ」 「数字と結果ではなく、一年間に何を考えていたかを話す、という約束」 「覚えている」 「どこから話しますか」 レインが少し考えた。 「お前から話してほしい」 「私から?」 「ああ。俺が先に話すより、お前の話を聞いてから、俺が話した方がいい気がする」 エリナは少しだけ考えた。 一年間、何を考えていたか。 「最初に話したいのは、変わったことです」 「変わったこと」 「この一年で、自分が変わった。言葉にできないことが増えた。整理できないことが増えた。でも、それが悪いとは思わなくなった」 「そうか」 「一年前は、全部言語化しようとしていた。情報として処理しようとしていた。でも、今は、整理できないことを、整理できないまま持っている」 「それが、変わったことか」 「一つ目の変わったことです。二つ目は、届けたいと思うようになった」 「届けたい?」 「誰かに、知っていてほしいと思うようになった。今日笑ったこと。今日、目が少し熱くなったこと。猫を貸してもらったこと」 レインが静かに聞いていた。 「以前は、そういう気持ちがあまりなかった。でも、あなたが言ってくれた。相手に知っていてほしいから書く、と」 「俺が言った」 「それを聞いてから、届けたいと思うようになった。あなたに」 最後の一言が、少し早く出た気がした。 でも、出てしまったから、取り消さなかった。レインが少しだけ間を置いてから、言った。
「俺が話す番だ」 「はい」 「一年間、お前のことを考えていた」 「手紙に書いてくれました」 「手紙に書いた以上のことを、今夜話す。手紙では、まだうまく言葉にできなかった部分がある」 「聞かせてください」 「俺は、孤児院で育った。家族がいなかった。学院に来てからは、師匠がいた。でも、師匠は師匠であって、家族ではない」 「知っています」 「誰かのことを、これだけ考えたことがなかった。お前の手紙が来るたびに、お前が今日何を感じているかを考えた。重い時は重いと言っていい、と言ったのは、お前に言っていてほしかったからだ」 「わかっていました」 「わかっていたか」 「手紙を読んだ時、わかりました」 「そうか」レインが少しだけ目を伏せた。
「俺にはまだ、うまく言葉にできないことがある。でも、一つだけ言える」
「どうぞ」 「お前のことが、大事だ」暖炉が燃えていた。
エリナは、レインの言葉を受け取った。 整理しようとしなかった。 受け取った。 それだけ。 「レイン」 「何だ?」 「私も、同じです」 言葉にしようとして、うまくいかないことが多かった。 でも、今夜は、これだけ言えた。 私も、同じです。 レインが少しだけ、口の端を動かした。声には出なかった。でも、笑った。 「同じか」 「同じです」 「それで、十分だ」しばらくして、フィオナとゴードンが戻ってきた。
フィオナがテーブルを見て、二人の顔を見て、何も言わなかった。 でも、席に着く前に、エリナにだけ聞こえるように小さく言った。 「いい顔してる」食事が終わって、外に出た。
冬の王都の夜だった。 石畳が、冷たかった。 空に、星が出ていた。 ゴードンが先に宿の方へ歩いていった。 フィオナが少し遅れて、エリナに言った。 「今夜の話は、後で全部聞かせてもらうから」 「フィオナ」 「何?」 「ありがとう」 「どういたしまして。詳細は明日ね」 フィオナも歩いていった。 エリナとレインが、石畳の上に並んで立っていた。 「ルシェムに帰るのか?」 「明日、帰ります」 「俺も、学院に戻る」 「そうですね」 「でも、また来る」 前に、同じことを言ってくれた。 最初の時は「来るかもしれない」だった。 二度目は「来る」になった。 今夜は、また「来る」と言った。 「待っています」エリナが言った。 それが、今夜言えた一番大事な言葉だった気がした。宿に戻って、部屋に入った。
エリナは机に向かって、荷物の中からセレーナへの手紙を取り出した。 昨夜書いた手紙。帰ってから渡すつもりだった手紙。 もう一行、付け加えた。 『届きました。帰ります。』 それだけ追加して、また封をした。ランプを吹き消した。
暗い部屋で、少しだけ目を開けていた。 今夜、一年後の約束が果たされた。 レインが言った。お前のことが、大事だ。 自分が言った。私も、同じです。 整理しなかった。 でも、あることは確かだ。 エリナ・アッシュフォード、八歳。 今夜、届いた。 それが今夜、一番大事なことだった。フィオナがルシェムに来たのは、謁見から二週間後のことだった。 予告なしだった。 朝、市場から戻ったマリオが、息を切らして事務室に飛び込んできた。 「フィオナさんが来た」「どこに?」「市場の入り口。馬車で来てる。荷物が多い」「荷物が多い?」「トランクが二つある」 エリナは少しだけ止まった。 「泊まりではなく、しばらくいるつもりですか」「そういうことじゃないか? 迎えに行くか?」「行きます」 市場の入り口に着くと、フィオナが馬車の横に立っていた。 久しぶりに、ルシェムで見るフィオナだった。 王都で会った時とは少し違って見えた。服装は変わらないが、顔が少し違う。 疲れている、と手紙に書いていた。 確かに、少し疲れた顔をしていた。 でも、エリナを見た瞬間、目が変わった。 「来た」「来ましたね、予告なしで」「予告したら、準備されすぎると思って。あなたのことだから、部屋を完璧に整えて、食事まで用意して待っていそうだから」「そうしようとしていました」「でしょう。だから、言わなかった」「荷物が多いですね」「しばらくいようと思って」 フィオナが少しだけ声を落とした。「王都からの仕事は、手紙でできる部分も多い。しばらくルシェムで動きながら、こちらの空気も吸いたかった」「どのくらい?」「一週間か、二週間か。決めていない」「決めなくていいです。いたいだけいてください」 マリオが荷物を運んでくれた。 フィオナが見ると、少し驚いた顔をした。 「マリオ、大きくなった?」「なってないと思うけど、フィオナさんが久しぶりに会うから大きく見えるだけじゃないか?」「そうかもしれない。でも、なんか違う。顔が違う」「どう違う?」「前より、落ち着いた顔をしてる」「そうかな」
翌日から、エリナは動き始めた。 といっても、急いでいるわけではなかった。 落ち着いて、一つずつ。 謁見の翌日以降に何をするかは、帰り道の馬車の中でゴードンと話し合っていた。 優先順位は決まっていた。 一つ目、商会の代表変更の正式書類を処理する。二つ目、各町の現場責任者に謁見の結果を報告する。三つ目、フィオナと連携して規制案の継続審議への対応を続ける。四つ目、学院の衛生教育の検討に、商会として協力できることを提示する。 どれも、急ぎではない。 でも、止まってもいない。 まず、商会の代表変更の書類が届いた。 アルバ殿下が約束した通り、一週間以内に書状が来た。 正式な書類に、エリナ・アッシュフォードの名前が入っていた。 アッシュフォード商会の代表者、エリナ・アッシュフォード。 ゴードンがその書類を机の上に置いた。 「これで、正式になりました」「そうですね」「どういう気持ちですか?」 エリナは少しだけ考えた。 「思っていたより、静かな気持ちです」「静か、とは」「もっと大きな感情が来ると思っていた。でも、静かだった。当たり前のことが、形になった、という感じです」「それが、正しい感覚だと思います」ゴードンが静かに言った。「当たり前のことを積み上げてきたから、当たり前に形になった」「ゴードンさん」「はい」「代表名義をずっと引き受けてくれていた。本当にありがとうございました」「礼はいりません。でも、受け取ります」 それだけだった。 それで十分だった。 次に、各町の現場責任者への報告をした。 マグダ、シェナ、ジルカに、それぞれ手紙を書いた。 謁見の結果。陛下が約束を守ってくれたこと。商会の活動が引き続き認められたこと。今後も続けることができること。 返事は、それぞれ三日以内に来た。 マグダから。 エリナちゃん
ルシェムに帰った翌朝、エリナはいつもより少しだけ遅く起きた。 目が覚めた時、空はすでに明るかった。 珍しいことだった。 いつもは夜明け前に目が覚める。でも今朝は、光が差し込んでから目が開いた。 しばらく、布団の中でそのままいた。 これも珍しいことだった。 起きたら、すぐに動く。それがいつものエリナだった。 でも今朝は、少しだけそのままいた。 窓の外から、ルシェムの朝の音が聞こえた。 市場へ向かう人の足音。遠くで犬が吠える声。風が木の葉を揺らす音。 帰ってきた、と思った。 昨日も思った。でも、今朝も思った。 ここが、自分の場所だ。 台所に行くと、セレーナが先にいた。 「おはよう」「おはようございます」「よく眠れた?」「はい。遅くまで眠っていました」「そう。今日くらいは、いいんじゃない?」「そうかもしれません」 薬草茶を作りながら、エリナは窓の外を見た。 冬の朝の空は、澄んでいた。 「お母さん」「うん」「昨日、ゴードンさんから聞いた話があります」「何?」「学院が、来年から衛生教育を取り入れることを検討しているそうです。石鹸の使い方、薬草薬の知識、傷の手当ての手順を、学院の教育に組み込む話が始まっている」 セレーナが少しだけ手を止めた。 「それって、どういうことになるの」「学院で教えれば、学院の生徒が卒業して各地に行く時に、その知識を持っていく。一人が届けられる場所より、ずっと広い範囲に届く」「あなたが一年でやったことが、もっと広がるということ?」「そうなるかもしれません」「お父さんが聞いたら、何と言うかしら」 エリナは少しだけ考えた。 「『私よりうまくやっている』と言うか、それとも『まだ足りない』と言うか」「この前も同じことを言ったわね」「同じこ
翌朝、エリナは早く起きた。 今日、ルシェムに帰る。 荷物を確認した。報告書の写し。確認書の写し。殿下から預かったアッシュフォード商会の正式な代表変更に関する書状の下書き。そして、セレーナへの手紙。 全部、ある。 朝食を三人で食べた。 フィオナが、珍しく朝から饒舌だった。 「昨夜の話、全部聞かせてもらうって言ったけど」「聞きますか?」「聞く。でも、今は聞かない」「なぜですか?」「あなたの顔を見れば、大体わかるから。今日は、その顔で十分」「どんな顔をしていますか?」 ゴードンが静かに言った。 「昨日フィオナが見たかった顔」 出発前に、フィオナと二人になった。 宿の前の小さな通りで、少しだけ話した。 「フィオナ、これからどうするんですか?」「王都にいる。まだやることがある。規制案はまだ継続審議のままだ。陛下が認めたとはいえ、クロヴェルが諦めたわけじゃない」「そうですね」「でも、今日は違う話をしたい」「どんな話ですか?」「あなたが帰った後のことを、少し考えた。王都に来てからの一年間、私はずっとここで動いていた。でも、いつかルシェムに行ってみたいと思っている」「ルシェムに?」「マリオとルナに、会いたい。あなたが話してくれた人たちに。あなたが動いてきた場所を、見てみたい」「来てください、必ず」「いつ行けるかはわからない。でも、行く」「待っています」 フィオナが少しだけ笑った。 「その言葉、昨夜もレインに言ったでしょう」「言いました」「同じ言葉が、自然に出てくるようになったんだね」フィオナが穏やかに言った。「前のあなたには、なかった言葉だと思う」「そうかもしれません」「いい変化だと思う」 フィオナが手を差し出した。 エリナはその手を両手で握った。
謁見が終わって、王宮を出たのは昼過ぎだった。 アルバ殿下が廊下で待っていた。 「よくやりました、エリナ殿」「ありがとうございます。殿下の準備がなければ、今日はなかった」「王都のデータは、効きましたね」 殿下が少し笑った。「右側の列が、ざわついた」「見えていました」「父上は、満足そうでした。あの顔は、久しぶりに見た。一年前に、『わくわくしている』と言いましたが、今日はそれ以上でしたよ」 エリナは少しだけ、その言葉を受け取った。 「殿下、商会の代表についてお願いがあります」「ゴードンさんから聞きました。昨夜、連絡をいただいた」「はい。正式にエリナ・アッシュフォードの名で商会を持てるよう、陛下にご確認いただけますか?」「すでに父上に話しました。年齢の問題は、特例として認めていただける方向です。正式な書類は、来週中に届きます」「ありがとうございます」「アッシュフォード商会の代表が、アッシュフォードの名前になる。当然のことですから」 王宮の外で、師匠とレインが待っていた。 師匠がエリナに言った。 「一つだけ言っておく」「はい」「今日の発言で、一番良かった部分を教えてもいいか?」「ぜひ」「クロヴェルへの返答だ」 師匠が静かに言った。「感情で返さなかった。でも、感情がないふりもしなかった」 エリナはフィオナが昨日言っていた言葉を思い出した。 「感情がないふりもしなくていい、という言葉を、昨日フィオナからもらいました」「賢い子だ、フィオナ殿は。あの返答には、あなたがいた。数字だけではなかった」「届きましたか?」「届いた。俺には届いた。他の人間にも届いたと思う」 師匠が一歩退いた。 「俺はこれで失礼する。よくやった」「先生、ありがとうございました。一年間、本当に」「礼
謁見の日の朝、エリナは四時間ほど眠った。 眠れると思っていなかったが、眠れた。 目が覚めた時、空はまだ暗かった。でも、もう眠れなかった。 起きて、顔を洗って、薬草茶を作った。 ルナが持たせてくれた葉を使った。 温かい湯呑みを両手で持って、部屋の窓から外を見た。 王都の夜明け前。 ルシェムとは違う空の色だった。でも、夜明け前が静かなのは、どこでも同じだった。 今日、謁見の間に立つ。 もう一度、確認した。 怖い。でも、届けたい。 それだけでいい。 朝食を三人で食べた。 フィオナが、珍しく静かだった。 いつもは何か言う人だが、今朝は食べながらあまり口を開かなかった。 エリナが「どうかしましたか?」と聞くと、フィオナが少し笑った。 「緊張してる」「フィオナが?」「私も人間だから。あなたが緊張するより、私が緊張してる気がする」「なぜですか?」「あなたが上手くいくかどうかを、見ている立場だから。自分が話すより、大事な人が話すのを見ている方が、緊張する」 エリナは少しだけ、その言葉を受け取った。 大事な人が話すのを見ている方が、緊張する。 「フィオナ」「何?」「今日、謁見の間に入れますか?」「入れない。謁見の場に入れるのは、名前がある人間だけ。私には、今は資格がない」「そうでしたか」「廊下で待ってる。終わったら、すぐ出てくるでしょう。その顔を見る」「どんな顔をしていると思いますか?」「わからない。でも、見たい顔をしていると思う」 謁見の前の十分間は、王宮の廊下の一角で過ごした。 フィオナ、ゴードン、エリナの三人。 廊下は石造りで、冷たかった。外の空気が、石を通して伝わってくる。 エリナは上着の内ポケットに手を当てた。 手紙が、ある。 フィオナが言った。 「今日の目標を、一つだけ確